スマート・フォーラム通信 通算245号

日経新聞には、「働き方改革」の話題には、必ずと言っていいほど、「生産性向上」がくっついているのであるが、 猪木武徳(大阪大学名誉教授)氏は以下のような解説をしているので紹介する。(6/25記事から) 働き方改革論議の視点 「労働流動化」の絶対視避けよ  働き方改革は、労働生産性上昇という「効率」の問題を中心に、働く人の処遇面での「公正」に配慮しながら制度 や慣行を見直すという問題意識から出発していた。効率面で、①高い生産性部門への労働力移動が困難、 ②長時間労働や転勤が女性や高齢者の就業機会を減らしている、③正社員の削減が困難なことが非正規社員の 増大をもたらしている。それらの是正のために、解雇規制緩和などによる労働市場流動化が必要との議論が 勢いを得てきた。しかし、労働市場の流動化が生産性を向上させるという主張は、データによって実証され ているわけではない。  まずは、非正規雇用の内実を区別・分類し、それぞれの機能を見極める議論が必要だ。非正規労働は、 実は多種多様だ。プロジェクト参加型の技術者のような高度の技能を持つものも含まれるが、対策が 必要なのは、訓練機会もキャリアの見通しもないまま、低技能・低賃金で雇用される非正規労働者の 特徴と量的把握、その処遇の実態だ。UAゼンセンの調査(回答者1万3000人余)でも、最も多い要求は 「時給などの賃金上昇」であり「正社員としての採用」はかなり低い。  労働の流動化が生産性を高め、イノベーション(技術革新)を活発化するという根拠は定かではない。 経済学の教科書には生産性の低い企業から高い企業に労働者が移動すれば、全体として労働生産性は上がるとされるが、 労働移動に伴う技術取得に関する議論はない。移動でむしろ賃金が減る場合がどのくらいあるかについて、 日本での実証的分析は少ない。解雇の場合は、経済・健康両面の影響についての米国の実証研究は少なくない。 流動的とされる米国の市場でも10~15%の報酬の低下が長期的にみられること、健康面や家族の教育面での悪影響が報告されている。  革新的な新企業の立ち上げ(いわゆるベンチャー)こそが、生産性の上昇の端的な例だという主張もあるが、 必ずしも個々のイノベーションとマクロの労働生産性が直結しているわけではない。新規参入による創造的破壊よりも、 既存企業による技術改良の方が、政調への貢献が大きいことを示す研究が多くなっている。企業内での人材育成、技能形成を 考慮しない「流動化論」を無限定に労働政策に適用することは危険だ。  格差と公正の議論に必要なのは、どのような非正規労働者がいかなる不公正な処遇を受けているのかを確定して、 正規への転換を可能にするような企業内の訓練と選抜機会の適用を、企業や労働組合が、職種や業種ごとに検討することではないか。

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