スマート・フォーラム通信 通算262号

大阪大学の小原美紀教授が大変興味深い論考を日経新聞に掲載しているので紹介したい。(12/31日経)  日本の世代間格差は2000年代後半までに緩やかに拡大した後、高止まりしている。先進国の格差拡大 の背景には高齢化の進展がある。技術革新と共に、教育を受けた者とそうでない者の格差も拡大したと言われる。 しかしそれらだけでは日本の世帯間格差の特徴は説明できない。日本では、働いているかどうかの差よりも、 働いている者の中での格差が拡大している。特に低所得者層が増加している。一度非正規になると、なかなか抜け出せない。 統計を分析する際には、 第1に非正規労働者を世帯として把握したい。ある人が非正規労働者だったとしても、 その人の世帯に安定した所得を得た者が存在すれば、その世帯員の経済厚生は低くなりにくい。 第2に非正規労働者の 所得や消費だけではなく、非就業時間の長さにも注目しないとならない。例えば育児中は働きたくても働けないことが あるからだ。 第3に非金銭的な側面、例えば精神的なものも含めた健康状態の悪さは見過ごせない。 これらに注意して分析すると、家計を担う者が非正規である場合、所得や消費の水準が低いことがわかる。 とりわけ既婚女性が非正規で働く場合、働かない場合や正規として働く場合よりも精神的な健康状態が悪くなる。 働きながらも低い階層に分類される世帯では、将来を考えた行動がとりにくい。病気など不慮の事態に備えた貯蓄や 投資がされにくい上、負の出来事に直面する確率も高く、損失も大きい。子供がいれば、次世代への負の連鎖も起きやすい。 教育や健康への投資にも差があるからだ。非正規という働き方も同様である。    ところで、人々は「働けない」のか「働かない」のか。貧困層の環境を改善すればよいのかどうかを統計的に 識別することは難しい。少なくとも、貧困層を含む低所得階層に、働くとか将来のための行動をとるといった意欲を もてない層がいることは間違いない。意欲が持てないのを本人の責任とするのではなく、推奨される行動を取った時に 得られる便益を高める必要があるだろう。例えば、子供が医療サービスを受ける、高等教育への補助拡充などの消費に 対する補助ならば、就労意欲を阻害することはない。そもそも最初に生活困窮状態に陥ったのは本人の非によるものではない。 次世代の高い生産性を引き出すためにも、貧困層の意欲を阻害しない補助政策が社会全体のために必要だ。

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